年譜>その03 1936〜37 /ヨシミツ
1936(昭和11)/8歳
〇大阪毎日小学生新聞に、田河水泡著『小型の大将』の連載が始まる。手塚少年は、登校前、夢中になって読んだ。
〇この頃から、漫画をよく描くようになり、通学電車内の窓ガラスや、クラスメートに頼まれてよく『フクちゃん』のマンガを描いてあげた。
〇この頃から、メガネをかけ始める。
1937(昭和12)/9歳
〇3年のクラス担任に稲井先生が着任。手塚少年の才能を認め、おおいに漫画を描くように励まされる。
〇ノートや教科書の隅に、アニメーションを描いてみたり(パラパラ漫画といっていた)、黒板で落書をしたりする。その巧みさに、級友も驚く。また漫画に、手塚治虫創作のストーリーがつき始める。
〇『ピンピン生ちゃん』という漫画を描く。
〇学芸会で『丹下左膳』をやろうとして、宝塚歌劇に衣装を借りに行ったが、ないと言われたので、この計画は実現しなかった。
また『肉弾三勇士』では三勇士の役を演じた。この時、絶命して、そのまま倒れていなければならなかったのに、最後の幕が下りる前に、起きて走り出してしまった。トイレに行きたかったためである。しかし、彼の演劇好きということは、長じても変わらなかった。
〇大阪市電気科学館に完成したプラネタリウムによく通い、宇宙への夢を思いえがく。まだ、阪急・宝塚線の鈍行が、木造箱型の2両連結の頃であった。手塚治虫を四つ橋の大阪市電気科学館に誘ったのは、小学校時代の親友・石原実氏であった。
手塚治虫は、後年(1985(昭和60)年)、プラネタリウムとこの親友について、次のように語っている(要旨)。
彼はのちに石原時計店(大阪・淀屋橋交差点角。戦前は、心斎橋筋にあった)の社長となる、エンジニア肌の子どもであった。理科・算数は得意であったが作文が苦手で、作文の宿題を出され、何も思い浮かばず、「なんにも思いつかなかったこと」という題で提出したことがあったという。
彼は、どちらかというと電気科学館の階下の機械の陳列の方に興味があったようだが、自分は、プラネタリウムの方に強くひかれた。あの鉄亜鈴のような奇怪な姿が、目に焼きついて、のちの漫画の仕事でも、そのイメージを流用させてもらった。今、考えると、確かにあのデザインは、日本の泥臭い兵器や自動車のデザインとは格段に差のあった、ナチス・ドイツの光学技術の粋であった。
館内ではよくエルガーの『威風堂々』がかかっていた。手塚少年は、その曲を、しばらくプラネタリウムの曲だと思っていた。
ホール入り口の左側に売店があった。ここで原田三夫著の『子供の天文学』という本を買った。自分と同世代の小松左京氏、筒井康隆氏なども少年時代、同じ本に熱中した。ボーデの法則、島宇宙、ダイアモンド・リングなどという用語を覚えたものだ。
また、その売店では「プラネタリウム」というお菓子も売っていた。やや長めのクッキーに、銀の砂砂糖を散らしてあって、それが星空という訳だ。毎度それを買って食べた。結構うまかった。
また自宅で、自分で作ったプラネタリウムを使って、友達に見せたり、天体望遠鏡も自作した。
自作のプラネタリウムは、石鹸箱に火箸で星座の穴をあけ、中に裸電球を入れたもの。四角い箱で四角な天井に映すので、本物とはほど遠かった。それに映っている星をよく見ると、ミミズのようにくねくね曲がった像だった。原因は、電球のフィラメントの形状にあった。
天体望遠鏡の方は「子供の科学」、「科学画報」の販売代理部からレンズを買って作った。しかし、月のクレーターはともかくとして、恒星はおろか火星、水星などの像も、色収差で、赤青緑に分裂し、三つにダブって見えるのがオチだった、と言う。
ちなみに石原氏は『鉄腕アトム』に登場した、国籍不明の怪盗「金三角」のモデルである。
〇手塚治虫の誕生日は、戦前、明治節の日でもあった。学校では式典が行なわれるが、帰宅後、手塚家では級友を招いて、手塚少年の誕生パーティーが開かれた。弟(浩)・妹(美奈子)が参加し、お寿司・茶碗蒸し・お菓子などが出て、とても楽しかったという。
また父親は、8ミリで撮った運動会のフィルムを上映した。その影響もあって、この頃、父親の8ミリ撮影機で、映画を作って遊んだり、上映会もしていた。
ヨシミツ
年譜の付録。その03について。 /ヨシミツ
手塚少年の漫画の才を認めてくれたり、学芸会の衣装を宝塚歌劇に借りに行ったりと、1930年代の小学校としては、ずいふん、自由な雰囲気だったということがわかります。
池附小学校の先生方は、そんな自由な教育を実践していた、と書かれていました。
親友・石原実氏のことは、I氏と、実名を伏せて書いたものもありました。
この石原時計店て、今も、りっぱな店舗を構えるお店なんですよね。この間「ナイトスクープ」に出てきた店じゃなかったかしらん…。
それと、プラネタリウムの電気科学館の方も、今もあるんですよね。
ヨシミツ
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