年譜>その14 1952       /ヨシミツ 1952(昭和27)/24歳
〇藤子不二雄両人が宝塚の自宅を訪う(3/21)。
 手塚治虫は、両人を始めて見た時、凸凹コンビだ、と思った、と言っている。凸凹コンビは、手塚治虫が、ハリウッドの喜劇映画の、バッド=アボット、ルウ=コステロの二人組と、ローレル=ハーディの二人組とをあわせたようなキャラクターを作り、初期作品に登場させていたもの。それまで二人組の漫画家のタマゴはいたが(山口真民・泰民両氏兄弟、村上卓児(眉村卓)・英児両氏兄弟など)、いずれも似たもの同士で、藤子不二雄両人のような"対照の妙"を持ったコンビではなかった、と言う。藤本氏は、面長で、おっとりした若旦那タイプ、我孫子氏は、バサッと髪を分けた、太い眉の精悍なタイプだった。
 また両人が、手塚家に到着したのは、もう夕方で、その日の夜には、富山へ帰るということだった。
 両人は描きかけの漫画原稿(『ベンハー』)を持参していて、手塚治虫は目を通す。手塚治虫は、この2人が、将来、自分の領域を侵す大物になる、と恐れ、かつ期待した、また、自分など顔色なからしむような大傑作をどこからか出版するんじゃないか、と思ったと回想している。事実、藤子不二雄両人は『最後の世界大戦』を発表、その緻密さ、豪華さ、克明さで、手塚治虫を感嘆させている。そしてこの時、両人のペンネームが「足塚不二雄」であったことも手塚治虫を恐縮させた。
 ちなみに、この時点で『ベンハー』はまだ映画化されていない。

〇さいとうたかを氏が、宝塚の手塚家を訪れる。たまたま手塚治虫は上京中で留守であり、母と二言三言話して帰っていったという。

〇「漫画少年」の投稿漫画で、石ノ森章太郎(当時、小野寺章太郎)氏の絵に触れる。

〇『魔剣烈剣』を見て、横山光輝氏のことを知る。M社の社長が「目を通してみてください」というので、原稿を見る。売れるだろうか、という社長の問いに、手塚治虫は、時代物は、今の子どもたちにどうでしょう、と返答する。ところが出版すると、大当たりをとる。

〇『アトム大使』の連載が終わり(3月)、あらたに『鉄腕アトム』の連載が始まる(4月)。
 「少年」の編集者から、単行本と雑誌連載の違いについて指摘を受け、また主人公が別であったものを、「アトム」を主人公とするようアドバイスを受ける。雑誌掲載の予告ではタイトルが『鉄人アトム』となっている。
 また、それまでの手塚作品が、登場人物を"狂言まわし"として、その上で、宿命や時代相を展開してゆく、いわゆる大河ドラマであったのに対して、『鉄腕アトム』では、主人公そのものが、劇的環境のただ中に入るドラマ、すなわちシチュエーション・ドラマの手法を採用した。手塚治虫個人は、大河ドラマの方が好みであった。

〇講談社「少年クラブ」に『ロック冒険記』を連載する(7月〜1954(昭和29)4月)。

〇大阪で医師国家試験(第12回)を受験。合格して医師の資格を取得する。

〇国家試験の合格を期に、東京で下宿を始める(四谷駅付近の八百屋の2階)。

〇この頃、パチンコに凝る。生活に必要なものをパチンコで入手していた。

〇田中正雄(大阪で漫画仲間だった。当時、東京に転居していた)氏のもとへ手塚治虫の母親から手紙が届いた。内容は、手塚治虫に医者の道に戻るよう、説得を依頼したものだった。

〇この頃、8本の連載を持っていた。

〇「学童社」から単行本『ジャングル大帝』第1巻が刊行される。詩人サトーハチロー氏の好意的な書評に勇気づけられる。
 単行本『ジャングル大帝』の続刊を出すについて、次のような話があった(要旨)。
 巻頭の口絵に、ジャングルにちなんで、手塚治虫と猛獣を組み合わせたポートレートを入れようという企画が「学童社」よりもたらされた。当初、ライオンを抱くという話であった。飼育係が付き添うということであったが、手塚治虫は恐れをなして反対した。編集者はあきらめ切れず、さまざまな動物をあげ、最終的にチンパンジーの「スージー」と決まった。
 「スージー」は当時上野動物園の人気者であった。撮影当日、「スージー」は機嫌が悪く、手塚治虫のメガネをとって、敷石にたたきつけ、こわしてしまった。出来上がった写真は、手塚治虫と「スージー」が口をとがらせて"不平を言い合っている"場面だった。

〇当時、「東京児童漫画会(児漫長屋)」の、手塚治虫と同世代の漫画たち〜馬場のぼる・福井英一・うしおそうじ・古沢日出夫・高野よしてる・山根一二三の各氏〜は、手塚治虫とともに「七人のサムライ」と称したという。仕事もこなせば、飲む方も盛んであった。また毎年、漫画カーニバル(練馬・豊島園)や忘年会を盛大に行なった。席上、手塚治虫は、アコーディオン演奏を披露したこともあった、という。

                              ヨシミツ 年譜の付録。その14について。(略)
                              ヨシミツ