年譜>その53 1985       /ヨシミツ 1985(昭和60)/57歳
〇医師の最終的な検査を終え、本格的に仕事を再開する(1月)。

〇実験アニメーション『おんぼろフィルム』が完成する(4月)。アヌシー国際アニメ映画祭へ出品の予定で制作に入ったが間に合わなかった。しかし授賞式の前に1本だけ特別上映されるという栄誉を受け、観客の大喝采を浴びる。
 この作品はついて、手塚治虫は次のように言っている(要旨)。
 100年前に作ったような古い感じを出し、黎明期への映画への挽歌であり、パロディであって、そして自分自身が作った『鉄腕アトム』への挽歌でもある。ノスタルジーと皮肉をこめて、アニメの先人たちに捧げたい、と。

〇自主制作アニメ『るんは風の中』/「月刊少年ジャンプ」(1979(昭和54)4月)が完成する(4月)。

〇「NHK特集」の取材が始まる(夏)。渡仏のため3日間に3本の作品を仕上げる様子や出発直前まで仕事をする様子が記録された。

〇「日仏文化サミット’85/アルケスナン」に出席するために渡仏する。夫人同伴の初めての海外旅行であった。
 その時のことを、手塚治虫は次のように述べている(要旨)。
 フランスへは、仕事の遅れで、2日ずれて、夫婦だけで出発した。パリに着いたら、自分から離れないように、と大きなことを言っていたが、ドゴール空港へ降り立ってみると、はて、以前と様子が違う。それでも到着客の列に着いていって、バスに乗ると、国内線の乗り継ぎターミナルに着いてしまった。入国審査の窓口がない。
 オロオロする自分に、夫人は落着き払って「誰かに聞いてみたら」と言う。フランスで他人に道を聞くことほどムダなことはないと思いつつ、聞いてみると、案の定、誰も知らないという答え。夫人はますます落ち着いて「元のところへ戻ったらいいでしょう」ということで、バスに乗って戻る。するとそこに入国審査があった。
 荷物受け取りへ行くと、時間がたっていたので、ひとっこひとりいない。自分たちのトランクが消えてしまって、厄介なことになったと、汗を拭いて走り回っていると、「ここにあるわよ」と、持ち去られる直前のトランクを見つけてくれた。ほうほうの体で外へ出た。
 会場のあるアルケナンというところは、パリから300キロも離れたところである。なぜ、こんな不便なところで、と思っていたが、行ってみてわかった。そこには200年前の製塩工場があって、そのまま遺跡として残っていて、宿泊所となっている。そこへ自分たちは送り込まれて泊まらされた訳だ。各部屋には鍵があるものの、四六時中開けっ放しである。夜中に泥棒が入ったら、どうするのだ、と聞くと、そんな殊勝な泥棒はいない、盗るなら昼間に堂々と来ますという返答。女性がひとりでいて、襲われたら、と言うと、その時は、あなたが駆けつけて勇敢に戦ってください、と言う。フランス政府としては、2世気も前に、このようなモダンで科学的(?)な設備をフランス人が作ったということを、日本人に見せたかったらしい。
 サミット後半は、パリ・デファンス地区。もとはスラム街だったところに、コワルスキーの設計で、超近代都市を作った。パリの街のムードもヘチマもない。何となくチグハグで、統一の美しさがない。その中の未完成の建物が会場である。冷房がなく、西日がガンガンあたる。さすがにフランス側も、このような中途半端な場所で悪いのですが、と言っていた。
 昼食も簡単なスナックで、アラブ料理が多い。サービスが貧弱で、食事や会議の時、欠席する人が出てきた。旧市街で食べた方がずっといい。メンバーの篠山紀信氏も途中からいなくなった。フランス側にいたってはもっとひどい。自分の番に好きなだけしゃべると、2度と会場に来ない。

〇広島で開催された第1回「国際アニメ映画祭」に出席する(8月)。この映画祭は、わが国初のものであった。久里洋二氏とともに副委員長をつとめる。
 同映画祭で『おんぼろフィルム』がグランプリを受賞する。

〇「日本文化デザイン会議」が大分で開催される。手塚治虫はパネルディスカッションなどに出席している。

〇『おんぼろフィルム』が第4回「バルナ国際アニメーション映画祭」で「カテゴリー部門最優秀賞」を受賞。

〇「手塚治漫画全集」完結により第9回「講談社漫画賞特別賞」を受賞。

〇『ジャンピング』が「バリャドリド国際アニメーション映画祭」の「銀穂賞」を受賞。

〇長年にわたるアニメ制作の功労により第1回「東京国際映画祭テラ・ピナ・アニメフェスティバル」で表彰を受ける。

〇「日本メンズファッション協会」の「ベスト・ファーザー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれる。

〇「手塚治虫漫画全集」が1985年版「ギネスブック」に、日本の個人全集の最多記録として掲載される。

〇「東京都民栄誉賞」を受賞する(年末)。漫画家を含め、文筆家では初の受賞であった。

                              ヨシミツ 年譜の付録。その53について。(略)
                              ヨシミツ